2013年5月23日木曜日

第14回ヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクール開幕

辻井伸行さんが優勝して日本で大旋風を巻き起こしてからまる4年、第14回ヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクールが、テキサス州フォート・ワースでふたたび幕を開けました。昨夜22日がオープニング・ディナーおよび予選の演奏順を決める抽選会でした。

『ヴァンクライバーン 国際ピアノコンクール』でも書いたように、このイベントは、男性はタキシード、女性はイブニング・ドレス着用と指定されているフォーマルなガラ・ディナー。私が2009年に初めて行ったときには、わざわざそのためにドレスを買わなければいけない状態でしたが、今回は持ち前のドレスに、前日に慌てて買った靴。また、前回はひとりで出かけた上に、まだ誰も知っている人がいなかったので心細かったけれども、今回は同伴者もいるし、この4年間で不思議にもフォート・ワース地域そしてクライバーン関係者にたくさん知り合いができたので、心に余裕をもって登場しました。それでも、その場に行ってみると、やはりこのイベントの豪華さには圧倒されます。全部で600人ほどの参加者がいたかと思いますが、その人たちみなが盛装してワインを手に、フォート・ワース・シンフォニーのメンバーが優雅に室内楽を演奏しているのがまったく聴こえないくらいの賑わいのなか歓談している様子を見るだけで、私がコンクール出場者だったら逃げ出したくなるだろうなあと思うようなゴージャスな雰囲気。




前回のコンクール以来、クライバーン財団長も理事長もかわり、ヴァン・クライバーン氏本人も亡くなりで、変化の多かったこのコンクールですが、少なくともこのパーティの空気は、そうした変化をとくに感じさせないものでした。ディナーに着席すると、現財団理事長のCarla Thompsonがクライバーン氏追悼の挨拶をし、クライバーン氏本人そしてコンクールの歴史を追うスライドショーが流れました。そして、辻井伸行さんが録画された映像で、会場にかけつけたハオチェン・チャン(彼とはカクテルの時間にも少しおしゃべりをしましたが、少し前にハワイで会ったときよりもさらに大人の風格でした)が舞台上で、出場者たちに向けたスピーチをしました。ハオチェンのスピーチは、「このコンクールは、メディアや聴衆から絶え間ない注目を浴びるなか、大きな舞台で次々と演奏をしなければいけない、とてもプレッシャーの大きなコンクールで、出場者にはとても負担が大きいものです。でも、そうしたプレッシャーのなかで、さまざまな要素を除外して、自分の演奏だけに自分のすべてを集中させ、音楽と向き合う、という訓練の場としては、これほど格好の場はありません。そうした機会を得られたということは、演奏家にとってとても幸いなことです。この機会を存分に活かして自分の音楽を演奏してください」という主旨のもの。さすが。

さて、このイベントの主な目的のひとつは、予選の演奏順を決める抽選。これはディナーの最後に行われます。前回は、出演者ひとりひとりが、演奏順の番号が書かれた紙を大きなボウルのなかから一枚取り出す、という方法でしたが、今回は、ハオチェンがボウルのなかから出演者の名前が書かれた紙を一枚ずつ取り出し、最初に選ばれた人から、自分の演奏日時を選べる、という方法でした。今回は予選がなんと2段階で行われ、つまり出演者は全員予選段階で2回のソロ・リサイタルをすることになっています。一週間のあいだに、まったく違う演目のリサイタルを2回しなければいけないので、体力・精神力の調整のためにも、演奏順を選ぶにはかなり神経質になるだろうと思います。2日目、3日目からどんどんと埋まっていき、呼ばれるのが30人の最後になったClaire Huangciはやはり初日の最初の演奏、という結果になりました。結果はともかく、自分がいつ演奏するのかがわからない状態よりは、決まっていたほうが精神的にいいでしょうから、ディナーの後ホスト・ファミリーの家に帰った出演者は、それぞれの思いを抱えながら準備に向かっていることでしょう。この抽選で決まった予選の演奏順は、こちらで見られます。


リチャード・ロジンスキ氏の後継者として、クライバーン財団長を務めているのが、モントリオール出身のジャック・マルキー(Jacques Marquis)氏。ピアノ演奏の学位と、ピアノおよびオーケストラの両方の運営にかかわり、ビジネス経営やファンドレイジングの経験も豊かな、このポジションにはぴったりの人物です。私の同伴者の昔からの友達でもあるので、私も以前に一緒に食事をしたことがありますが、若い(といっても、年齢は私の数年上)エネルギーと人なつっこさ、モントリオールの人らしい国際的な感性を兼ね備えた人物です。また、財団のスタッフも、4年前とはずいぶんと顔ぶれが変わってはいるものの、相変わらず有能でてきぱきと仕事をする女性たちばかりで、4年前に私がリサーチをしていたときや、2年前にアマチュア・コンクールに出たときに会っただけの人も、ちゃんと私のことを覚えていてくれて、おおいに感心。

ディナーのあと、ホテルのバーで、友達数人そしてコンクール関係者と飲みながらさらにおしゃべりをしたのですが、そのときに、マルキー氏に聞いたところによると、今回は審査のしかたを変更したそうです。前回までは、審査員は各演奏を相対評価で得点をつける方法だったのが、今回は、予選・準本選では、それぞれの演奏について、「この出演者の演奏をもっと聴きたいかどうか」をイエスまたはノーで答えるだけ。予選でイエスの数がもっとも多い12人が準本選へ、そのなかからさらにイエスの数がもっとも多い6人が本選に進出します。そして、本選では、それぞれの審査員が、6人のうちで1位にもっともふさわしい出演者の名前を書き、13人の審査員の7人以上から名前を挙げられた人は自動的に1位となり、もしも誰も7人の審査員から名前が挙げられなかった場合は、上位2人のあいだで審査員が再投票する、という方法をとるそうです。審査員にとって、前の方法とこの方法のどちらがやりやすいのかは私にはわかりませんが、予選が2段階で行われるとなると、30人の演奏x2回をすべて総合して相対評価するのは至難の業だと思われるので、少なくとも予選から準本選にしぼるには、新方式が向いているような気はします。

それにしても、2009年のときも、予選で30人のリサイタルを聴くのは、興味深いながらも非常にスタミナを要するものだったのが、それがさらに2倍となると、明日からこちらもさらに気合いを入れてのぞまなければいけません。前回と同様、演奏はすべてウェブキャストされますので、ぜひごらんください。コンクール期間中、演奏についての感想に加えて、私が見聞きするいろいろな話題をこちらで逐次ご報告いたします。

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