今日2回目の演奏をした6人のうち、1回目よりよかったのは、Claire HuangciとScipione Sangiovanni。Huangciは、1回目は音の鳴りがいまひとつだったのに対して、今回は演目と楽器そして本人の音楽的なキャラクターがよく合って、前回よりずっといい演奏でした。Sangiovanniのベートーベンはやや重たすぎる印象はあったものの、彼も1回目より説得力のある演奏でした。
それに対して、Steven Linの演奏は、ハイドンはよかったけれど、ショパンは日本食に中華料理のソースをかけたような、ちょっと濃すぎる感あり。そして、最後のリストの「ドン・ジオヴァンニの回想」は、やたらめったら音が多い曲の超絶技性は見事に実現していたものの、アクロバティックな要素を超えた音楽の深みはあまり感じられず、途中からは音色もちょっと一面的だった印象を受けました。疲れが出てきたのかもしれません。(あれだけの音を弾けば、そりゃ疲れもするわさ、というような曲です。)1回目の演奏と比べると、切れ味も少し欠けたような気もしました。が、前回も書いたように、なにしろ彼はルックスがとにかくキュート。笑顔がたまらない。彼の笑顔を私たちが見られるためだけにでも、準本選に彼を進めてほしい、と思うくらい。隣に座っている女性とも、後ろの列に座っている女性とも、振り向き合っては「He's so cute!!!」と何度も言ってしまうくらいの、本当に信じられないようなキュートな容姿で、後ろの女性は、「女性の出場者に花束を渡す男性ファンがいるんだから、女性が彼に花束をあげたっていいわよね?準本選に彼が進んだら、私花束を持って来ようと思う」と張り切っています。ヴァン・クライバーン氏がチャイコフスキー・コンクールで優勝したときも、ソ連の女性たちがたくさん花やらプレゼントやらを彼に差し出したのだから、Steven Linに花束をあげて悪いはずはないわよね、と周りの席の人たちのあいだで盛り上がっていました。
1回目、繊細さはあるけれど迫力にいまひとつ欠ける、と思ったMarcin Koziakの今回の演奏は、ベートーベンはパワーがなさすぎ、ブラームスは逆にパワーばかりで音質がよくない、と思いました。また、ダラス出身で地元ファンが多いAlex McDonaldの1回目の演奏は、私は悪いところはないけれどもとりわけ心を打つようなものでもないなあと思ったのですが、今回は、1回目より全体として出来はよいけれども、やはりとりわけ芸術性を感じるものでもない、という印象。
そして、今日のスターはなんといってもBeatrice Rana。1回目の演奏もとてもよかったけれど、今回はそれよりさらに光って、「これは準本選進出間違いなし、本選にもほぼ間違いなし、入賞の可能性も大」という評価を確実にしました。ラヴェルの「夜のガスパール」はここ3日間ですでに何回も演奏されていますが、断然彼女の演奏が一番よかった。音色の彩りの豊かさ、音の層の重なり具合、多くの部分からなる曲全体の整合性、どれをとっても申し分なし。そして最後のバルトークの「戸外にて」がなんといってもすごかった。曲に馴染みのない聴衆にとってはともすると聴きにくい作品であるにもかかわらず、技巧と構想と演出で、みごとに曲の面白さを伝えていました。演奏後の彼女の表情も、1回目のときよりも明るかったので、本人も満足のいく演奏だったのでしょう。
というわけで、予選の2段階めはまだまだこれから。意外な展開がみられるかもしれません。他にもいろいろ書きたいことがあるのですが、今日は演奏のあとクライバーン財団の人たちと一杯飲んでから帰ってきたので、他の話題はまた後日にとっておくことにして、もう寝ます。