で、今回のバーバーのコンサートをプロデュースしたのは、東京音楽大学の学生たち。「弦楽のためのアダージョ」以外にはあまり作品が演奏されることがなく、日本の聴衆には馴染みが薄いバーバーの作品、それも、合唱や木管室内楽、オペラ、金管室内楽、室内オーケストラ、ピアノ独奏など多様な編成のいろいろなタイプの曲を集めた、とてもいいプログラムだと思いました。演奏そのものは、いいと思ったものもそうでもないと思ったものもありますが、それはまあそういうものでしょう。とにかく若い音楽家たちが頑張ってこういう企画をするということに拍手。また、私の後ろの列に座っていたのは、同じ東京音楽大学の在学生たちだったようなのですが、休憩時間の彼女たちの会話を盗み聞きしていると、とても真剣に純粋に演奏や作品について議論していて、嬉しくなりました。若い人たちが(などということを思う年齢になりました)、芸術であれ学問であれなんであれ、真剣に考えて意見を交わしている姿には、私はそれだけで感動します。
しかし、やたらと気になったのが、歌曲での英語の発音。音楽の演奏を聴いて、言葉の発音などにこだわるのも申し訳ないのですが、せっかく声はとてもよく、表現力もあるのに、発音がおかしいために演奏の全体的な質が下がっているのはもったいない。イタリア語やドイツ語の歌ならこちらもわからないので気になりませんが、英語だとどうしても発音が気になって集中できず、思わずコーチを申し出たくなるくらいでした。いろんなところで何度か言っていますが、もう一度声を大にして言います。英語の発音は、母音とアクセントでほぼ決まりです。日本人は、RとLをやたらと気にして、訳もわからず変なところで下を丸めたりします(RもLもないところでなぜか舌を丸めていたりすることがある)が、実際は、RとLなんていうのは、ちょっとくらい発音が違ったって、単語の選択が正しく、きちんとした文法構造の文に入っていれば、言おうとしていることは文脈からわかるものです。そんな子音の心配よりも、英語をきちんと話したいと思う日本人がもっと真剣に取り組むべきは、母音の発音とアクセントの位置です。どんなに美しく舌が丸められたって、母音の発音とアクセントの位置が間違っていたら、ほぼ絶対に通じません。歌の場合は、アクセントはまあ音符に従うわけですが、母音は正しく発音しなければ致命的です。日本語には母音がアイウエオの5つしかありませんが、英語は文字としてはAEIOUの5つでも、発音はずっとたくさんあるわけで、同じAでも、「エイ」と発音すべきところを「ア」と発音したら通じないし、同じOでも、「ON」のOと「PIANO」のOではまったく別物です。それらがいかに違うものであるかということを、ちゃんと認識した上で発話しないと、せっせと勉強しても通じるようになりません。難しいようでいて、これは発音の基本さえ理解すれば、じっさいはそんなに難しいことではありません。ましてや、音楽の学生は、耳はとても発達しているわけですから、きちんと教えればすぐできるようになるはずですし、海外のオペラのオーディションなどに出るときに、英語どころかドイツ語やフランス語やイタリア語が正しく発音できなければ役はもらえないのですから、もうちょっとちゃんと身につけるべきでしょう。
というわけで、みなさんも、RとLは忘れて、母音とアクセント、これをじっくり学んでください。