2010年9月28日火曜日

2010年度「天才」賞受賞者発表

毎年マッカーサー財団(John D. and Catherine T. MacArthur Foundation)という財団が「創造性と独創性に富んだ活動をし、これまでの業績からかんがみて将来も重要な貢献をする可能性があり、賞金を創造性のある活動に使う見込みがある」という基準で選ばれた約20名の人たちにMacArthur Fellowshipという賞を授与します。この賞は通称Genius Award、つまり「天才賞」として世間では知られていて、たいへんな権威と名誉があります。この賞を受賞するのは、科学者や歴史家に始まって作曲家や小説家など、ありとあらゆる分野にまたがっていて、受賞者には50万ドルの賞金がno strings attached(この表現は『性愛英語の基礎知識 』にも出てきますね:))、つまり使い方になんの制限もない形で与えます。芸術家や作家などは、この資金でしばらく生活の心配なく制作や執筆に専念できますし、文系の大学教授の場合は、大学の授業をしばらく休むまたは減らして研究に打ち込むことができます。多額の資金が必要な実験などをする科学者の場合は、50万ドルというお金は実際の研究資金としてはそれほど大した額ではないものの、それでもこの資金を使って研究アシスタントを雇ったり実験装置を買ったりして、さらなる研究を進めることができます。私の知り合いのなかでは、大学院時代に授業を受けた女性史の教授Mari Jo Buhleや、新進のアーティストとして注目されている立体芸術家Sarah Szeが過去に受賞しています。

今年の受賞者23名も、なかなか面白い顔ぶれ。なかでも私が個人的に興味があるのは、ジェファソンが関係をもっていたことが知られている奴隷の女性とその子孫の歴史を通じて、奴隷制や人種や性の複雑な歴史を解き明かした研究で知られている、歴史・法律の専門家、Annette Gordon-Reed。ブラウン大学のあるプロヴィデンス市で町の(多くは恵まれない環境で育っている)子どもたちのための音楽教育プログラムを運営しているSebastian Ruth。(Community MusicWorksというこのプログラムについては、Alex Rossが『ニューヨーカー』にとてもいい記事を書いていて、発売ほやほやの彼の新著『Listen to This』に収められています。)麻薬犯罪や政治腐敗にまみれたボルティモア市の複雑な現実を独特な手法で描いたテレビ番組『The Wire』(こちらではもう放映は終わってしまいましたが、これは無茶苦茶迫力があってとーっても興味深いですので、DVDで是非みてください)のプロデューサーで、作家・脚本家でもあるDavid Simon。受賞者はたいてい30代や40代の人が多いのですが、今回の最年長は、72歳で、活字フォントのデザイナーのMatthew Carter

こういった実にいろんな形の創造性や独創性、そして社会への貢献というものを評価し支援するのが、アメリカならではだなあと思います。