2009年5月22日金曜日

クライバーン・コンペティション第一日

いよいよ今日からクライバーン・コンペティションの本番です。予選の5日間は、毎日午後1時からと7:30から、一人50分のリサイタルが三人続けて行われます。つまり、我々は、一日6人の演奏を聴くわけです。これは、聴くほうにとっても相当大変だということが、一日めにしてわかりました。このコンペティションに出るくらいの人たちの演奏はどれも間違いなく素晴らしいのですが、いくら素晴らしくても6時間はかなりキツい。しかも、この選曲は自由とはいっても、コンペティションで演奏されるような曲はやはりショパンとかリストとかの、技巧を披露できるような、いわゆる速くて大きな曲が多いので、聴いていて正直なところだんだん疲れてくるのです。「もうわかったよ」という気分になってくるのです。それでも、やはり6人続けて聴くと、それぞれの個性や音楽性というのもわかって面白いです。

演奏の順番は先日のディナーでの抽選で決まったのですが、不思議なことに、全員の半分以上はアジア人であるにもかかわらず、今日はアジア人がひとりも演奏せず、アメリカ人男性が3人まとまって演奏しました。あとは、ウクライナの女性と、イスラエル男性、ロシア出身ロンドン在住の男性。抽選で一番をひいたNatacha Kudriskayaというウクライナの女性は、背が高くとても痩せていて、腕や指も長く、ショートヘアで、挑んでくるような迫力のある風貌と表情をしています。そして、こうしたコンペティションでは前代未聞なのではないかと思いますが、黒いシャツにぶかぶかの茶色のズボンにスニーカーといういでたちで舞台に現れました。この挑戦的な態度からして、どんな迫力のある演奏をするのかと思っていましたが、実際に演奏を聴いてみると、たしかに迫力はとてもあるのですが、それは溢れ出る情熱と気迫とかというよりは、むしろ高度にコントロールされた音色でできた演奏で、かなりびっくりしました。ピアニッシモがすごい。

そのあと続いた4人の男性の演奏は、それぞれ皆とても男性的というか、大きくて速くて聴衆をワッと言わせるような演奏(実際、これらのリサイタルの後では聴衆の多くが立ち上がって拍手をしていました)でしたが、正直言ってそんなに感動するような演奏でもないなあと私は思いました。私が今日一番感動したのは、今日の最後に演奏した、Eduard Kunzというロンドン在住ロシア人の男性の演奏。思わず抱きしめてしまいたいくらいキュートでチャーミングなルックスなのですが、その若い姿に不釣り合いなくらいの情感にあふれた演奏でした。なにしろバンバンと鳴らすような演奏が続いた後だったので、ピアニッシモで祈りながら歌うようなスカルラッティのソナタに始まってハイドン、私がこのあいだミニ・リサイタルで弾いたバッハ=ブゾーニのシャコンヌ、バッハ=シロティのプレリュード、どれも涙を誘うような演奏でした。シャコンヌは、やはり自分が勉強しただけに、聴いていて細かい箇所までいろいろと気がつきます。これはコンペティション向けの曲なので、他の何人かの出場者のプログラムにも入っていて、私にはとても勉強になりそうです。というわけで、私の採点では、Eduard Kunzに一票。コンペティションの演奏や出場者のプロフィールはすべてネットで、生でもアーカイブでも見られますので、ぜひちょっと見てみてください。

午前中は、今回最年少の出場者(あと数週間で19歳になる)、上海出身で現在フィラデルフィアのカーティス音楽院で勉強中の、Haochen Zhangという青年を、ホストファミリーの家でインタビューしました。若いのに(というといかにもおばんくさいですが)とても思慮深くものを考えていて、いろいろと思うところを語ってくれました。また他の出場者のインタビューもしてからゆっくり書きますが、ひとつ興味深いと思ったのは、今の若い中国人のピアニストたちにとって、Yundi LiそしてLang Lang(ともに『Musicians from a Different Shore』を参照してください)の存在はかなり大きいのだなあということ。この二人は、演奏のスタイルも、成功への道もまるで違うし、音楽家としてどちらかをモデルにしようとも思わないが、いろいろな意味で象徴的な存在ではある、とHaochenは言っていました。彼の演奏は月曜日です。楽しみ楽しみ。明日は、同じく『Musicians from a Different Shore』にかなり詳しく出てくる、Soyeon Leeが一番に演奏します。



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