そしてなんといっても、『ヴァンクライバーン 国際ピアノコンクール』でも書いたように、金持ちの金持ちぶりが半端ではない。私は今回は、2009年に辻井伸行さんのホストファミリーであった、デイヴィッドソン夫妻のところに滞在させていただいているのです(アマチュア・コンクールのほうは、ホストファミリー制ではないので、出場者は普通はホテルに泊まるのですが、私は2009年に仲良くなったデイヴィッドソン夫妻に、「ぜひうちに泊まりなさい」とオファーされて泊めていただくことになりました)が、2009年に何度か訪問したときには漠然としか認識していなかったこのおうちの豪華さに、宿泊客になってみると圧倒されます。実際には、新興タウンハウスの一部であるこの家は、フォート・ワースのなかでは比較的こじんまりしたほうなのだと思いますが、それでも、日本の感覚からいえば、超豪邸。家のなかに荷物を運ぶためのエレベーターがある。ゲストルーム(辻井さんが使った部屋を私も使わせていただいているという縁起の良さ)とゲストルーム専用のバスルームだけでも、東京のゆったりしたワンルームマンションくらいのサイズがある。なんといっても家具調度がすごい。こんなところにいても、私はあんまり居心地がよくないんじゃないかと思いきや、すぐに慣れて落ち着いてしまうところがオソロしい(私はよく人の家に泊まりにいっては、その家の人間のように落ち着いてしまう傾向があるのです)。そして、「これから2週間は、この家はあなたの家だから、家にあるものは自由になんでも使って、必要なものがあったら遠慮せずにすぐに言うこと」とキビしく言われ、カワイのグランドピアノも夜中であろうがなんであろうがいつでも弾きなさい、鍵盤やペダルの調子が悪かったらすぐに調律師に来てもらえるから、と言われ、初日は私の好きなメキシカン料理をご馳走になり、街のあちこちを案内してもらい(2009年に私が滞在したとき以来、ずいぶんと新しい建物が建って、街はだいぶ変わっている)、まったくもってお姫様のような扱いを受けています。ウェストポイント士官学校を卒業し長年軍に勤めたあとボーイング社に勤務し、今は退職しているジョンと妻のキャロルは、マジメに教会に通い政治信条的には保守(別にそう確認したわけではないけれど、話の流れから大体わかる)の人たちだけれども、頑固に教条的なところはまるでなく、アメリカの学界に身を置いている私がいわゆる「リベラル」であろうことは理解した上でオープンに話をする。自分たちの持っているものを、単に自分たちが裕福な生活をするために使うのでなく、芸術支援や貧困者層へのチャリティにも積極的にかかわり、こうして、知り合った人を温かく家に迎え入れるその姿勢に、感心も感動もします。
また、昨日家に到着してお茶を飲みながらくつろいでいると、ジェリーさん(『ヴァンクライバーン 国際ピアノコンクール』参照のこと!)からオレンジ色の花束が届いたのにも、涙が出る思いがしました。こんなにしてもらって、演奏で大失敗してしまったらどうしようと、プレッシャーも...(苦笑)