2009年1月2日金曜日

ハワイのお雑煮、Ruth Ozeki, Lorraine Hunt Lieberson

これも景気のせいなのか、ハワイの大晦日の花火は、例年よりずいぶん短時間で終わりました。いつもは、夜中の2時3時まで、寝ようと思っても外がうるさいし窓のすきまから煙が入ってくるしで眠れないくらいの騒ぎなのですが、今年は12時半くらいには大体騒ぎがやんでいました。元旦は、日系人の友達(『ドット・コム・ラヴァーズ』に出てくる「ジェイソン」のボーイフレンド)が作ってくれるお雑煮をご馳走になりに行きました。ハワイは日系人が住民の四分の一を占めるので、日本の伝統・慣習が驚くほど脈々と継承されていて、お正月はその最たる例です。日系人でなくても、ハワイではozoniとかnishime(なぜか「お」が取れて妙に乱暴な言い方なんです。「おむすび」のことも「お」なしでmusubiというのが一般的です。プランテーションに労働移民としてやってきた人々の言葉の名残なんでしょうか。)とかいう単語を知っている人は多いし、お正月前後には玄関に門松が立っている家もけっこうあります。夏にはほうぼうでbon dance、そう櫓を組んで盆踊りをやっています。日本人のほうが面倒くさくてしなくなっている日本の伝統行事を、ディアスポラの日系人たちのほうが熱心に継承しているわけです。私なんかは、なにかにつけ「これにはどんな意味があるのか」と聞かれて、答を知らないことばかりで困ってしまうのですが、日系人の人のほうがよっぽどよく知っています。

さて、以前にRuth Ozekiの『イヤー・オブ・ミート』をご紹介しましたが、この作者のもう一本の小説、『All Over Creation』を読みました。これがまた、『イヤー・オブ・ミート』に劣らず、文句なしに面白い!けっこう長いのですが、お正月から夜更かしをして読み切ってしまいました。『イヤー・オブ・ミート』は日本とアメリカ各地を舞台にした、牛肉産業をテーマにした(というとなんだか小説としては面白くなさそうな、訳のわからない話に聞こえるでしょうが、これが面白いんです)小説ですが、こちらの『All Over Creation』は、アイダホのジャガイモ農家が舞台です。前作と同様、とてつもないユーモアのセンスと、物語としての面白さと、鋭い社会批評と、家族とか青春とか老いとかといったテーマの愛情と哀愁のこもった取り扱いが、実に見事です。『イヤー・オブ・ミート』を読むとベジタリアンになろうかしらんと思わざるをえないし、『All Over Creation』を読むと有機野菜を買うことにしようと思わざるをえないのですが、そういうことをまったく別にしても、とにかく面白いので、おススメです。読んでいて痛快なのと同時に、私は、自分もこんな小説を書きたいなあ、という気持ちになります。こちらはまだ日本語訳が出ていないようですので、興味のあるかたは頑張って英語で読んでください。

まったく関係ないですが、おススメついでにもうひとつ。ホリデーシーズンになると私はバロック音楽が聴きたい気分になるので、最近は、残念ながら数年前に他界してしまったメゾソプラノLorraine Hunt LiebersonのCDを繰り返し聴いています。彼女の録音はたくさんありますが、私が一番好きなバッハのカンタータのCDはなぜかamazon.co.jpでは出てきません。でもヘンデルのアリア集もとてもいいのでおススメです。高貴であると同時に温かく優しい彼女の歌声を聴いていると、自分が人類の一部であってよかったなあという気持ちにさせられます。